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Up for Grabs(Starring マドンナ) [Arts&culture]

Up for Grabs『Up for Grabs』
David Williamson (著)

先日、13年ぶりの日本公演を果たしたマドンナ。

意外と忘れ去られていますが、ウエストエンドの舞台にも立っていたことがあります(ウエストエンドは、ブロードウェイのロンドン版みたいな演劇のメッカです)。今回の来日公演を報じるテレビの特集などでは触れられていないようなので、ちょっとご紹介。

この時の演目が、上記の『Up for Grabs』。
マドンナのウエストエンド・デビュー作品です。
豪州の劇作家の作品で、もともとは01年にシドニーで上演され大ヒットした戯曲。

主役であるマドンナは、ジャクソン・ポロックの絵を売ろうとする野心的なモダンアート・ディーラー役を演じています。

02年、会社を休んでロンドンへ10日間ほど行っていたときに、マドンナが舞台に立っているというので観に行ってきました。別にファンというのではなく、話題だったので。

劇場の客席はわずか760席弱。9週間だけの上演。

日本では「すでにソールド・アウト。プラチナチケットで裏では10万円くらいで取り引きされている」と報じられていましたが、到着した日の午後、劇場の売り場へ出向いてみると、あっさりその日の夜のストール席が買えました。一番高い席のチケットとはいっても7500円くらいだったと思う。

つまり、ギャラなんてマドンナにとってはただ同然。
ほかにも多くの役者が出演しており、どう考えてもギャラは安い。
キャリアとして、どうしても挑戦したかったことがうかがえる。

あのマドンナが小さく見えたステージだった。
4万5000人の東京ドームであれほど大きく見えるマドンナだが。
声も小さく、音響係が調整するまでは「大丈夫か?」と気になったことを覚えている。ほかのベテラン役者(上手すぎる!)との比較でそう感じてしまうのは仕方のないこと。

私が観たとき、隣の隣あたりに座っていた男性がマドンナの台詞を先に大声で言って野次り、マドンナが一瞬固まってしまった場面があった。

野次った本人はきっと熱心なファンだったと思うが(台詞と間を覚えているほど)、マドンナはベテランのようなアドリブで切り返すことはできず、その緊張が観客席にも伝わってきてかわいそうだった。ちなみにその台詞とは「wealthy(裕福な)」だった。あ、やはりマドンナへの皮肉?

マスコミでも手厳しい批評が目立った。かなり辛口。

野心家の女性がついにはすべてを失って、しかし顔を上げ、くるりときびすを返して再び歩き出すという終わり方だった(はず)。絶望のあとの希望。映画『風と共に去りぬ』のエンディングのヒロインの姿を思い出させる力強さが印象に残っている。いい役柄だった。どこかマドンナ自身に重なる気がした。

それほどひどいとは思えなかったが、おそらく観客はマドンナには完璧なプロフェッショナルな仕事を期待するのだと思う。

致命的なのは、どんな個性的な役であってもリアルなマドンナを超えられないことだろう。観客の目には何をやっても「マドンナ」。もちろん、それはマドンナ側の問題ではない。

彼女はもう二度と演劇の舞台には立たないのではないだろうか。
リアルなマドンナ自身を演じるライヴ以上の舞台はないと私も思う。

でも、私はもう一度、この芝居の舞台を観てみたい。


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