旅の思い出 [旅]
そのときは最高に楽しかった旅行も何年も経つと、どこへ行ったのかも忘れ去っている場合がある(涙)。写真を1枚も撮らなかった(あるいは現像しないままフィルムを無くした)場合もある……。でも、記憶に残る旅も多い。
この時期、ふと思い出した旅(というか出張)の話。
何年も前の季節的にはちょうど今ごろ、ちょっと事情があって、観光シーズンではない北海道のとある半島に1人で行かされました。鉄道もなく、頼るのは路線バスのみ。雪深いため、レンタカーでは無理。もしトラブルがあっても雪の大地のなかで、誰にも見つからないだろうと判断したわけです。
行き先は、そのバスでも2時間以上かかる場所。
最初は20人以上乗っていた地元の方々も、次々とバスを降りていく。
乗ってから1時間も経つと、乗っている客は私1人。
雪はさらに深くなる。
もちろん観光客なんて1人もいない。
この季節にここを訪れる観光客は皆無でしょう。
とはいえ、静かな大自然を前に私は楽しくバスに揺られていた。
こんな静寂な風景を見ることもめったにないだろうと、仕事だけれどすっかり旅気分。
それで、2時間半ぐらいで目的地の終点に到着。
岬もあって、その先には海。
ただ1人の乗客だった私は、そこでバスを降りようとし、
料金を払って、運転手さんに「ありがとうございました」と言ったところ……。
この運転手さん、やたらと話しかけてくるのです。
「ここからどこに行くの?」
「何をするの?」
「帰りはどうするの?」
……と質問が次々と。
普通の路線バスだけれど、私は観光客(?)へのサービスかな?と思い、あれこれ答えて「やはり地元の方は親切だなあ」と感心していました。
ところが、そのうちに、
「待っているから、帰りはこのバスで戻りなさい」
と言われてしまった。えっ?
どうやら、自殺をしに来た人と間違われたらしい……。
たぶん。そんなことはもちろん言わないが、そう心配されていたことは明らかだった。ずっと話しかけられて、1人にしないように配慮していることが伝わってきた。運転しているときから、ずっと気にしていたんだろうな……。
スーツにトレンチコート。
軽装(荷物はホテルに置いてきた)。
どう見ても地元の人でもないし、観光客でもない(笑)。
そのどちらもいない場所に、しかも1人。
そして目の前に広がるのは、雪、鈍色の空、荒波。
人も民家もない。
あああー、私、そんな人に見えちゃったのかー。
私は仕事で来たことを詳しく説明して、誤解を解こうと必死。
(さっきは仕事で来たことなどは説明が長くなりそうなので言わなかった)。
でも、不自然さは拭えない(笑)。
「ここで待っているから」と繰り返す運転手さん。
もう早々に用事を済ませて、戻ってきましたよ、私。
だって、とても心配していたから。
すみません、こんな誤解を与えてしまい……。
でも、地元の人の温かい人情に触れられて、心温まる旅(出張)となりました。
私には笑い話ですが、あのときの運転手さんは心配で心配で必死だったんだろうなあ。本当にすみませんでした。