ブックカバー考② [読書]
※ブックカバー考①からの続きです。興味のある方は①からお読みください。
ある日、書店の片隅に興味深いものを見つけてしまった。
「ブックカバーをご自由にお取りください」というラックである。
文庫本に合う大きさの、こじゃれたデザインのカバー。
触ってみると、厚手で丈夫そうだ。もちろん無料。
Amazonで買った、書皮のない文庫本用に好きなデザインのカバーを2つばかりいただいてきた。
一面のデザインは、有名企業の広告。
しかし、商業的というよりもデザイン性に優れた作品だった。
「ブランドブックジャケット」(通称ブラジャケ)というブックカバー広告である。
もともと書店のカバーには、書店名や企業の広告などがデザインされているが、これが私にとって斬新だったのは海外の企業の広告もあったからだ。
例えば、マイクロソフト社、BMW、ブルームバーグなどである。
マーケティングに優れた企業が多いのに気がつく。
本を読む層をターゲットにする読みはなかなか鋭い。
そういう層の知的・美的センスをくすぐるようなデザイン。
そして、配布する期間は短く、枚数を限定。希少性を出すことも忘れない。
アディダス、PIPER-HEIDSIECK、ぺリエ、ハーゲンダッツといった広告も過去にあるが、今となっては手に入らない。
もちろん、そのカバーをつけた本を電車などの中で読めば、企業のPRに即つながる。なにしろ、注意散漫の通りすがりの私ですら、はっ!と気がつくほどのスタイリッシュなデザインなのだから。
では、そのラックを置く書店にとってはどういう意味を持つのか。
当然、レジでは書店オリジナルのカバーをかけている。
ラック設置については一定の設置料金が書店側に入るのだろう。
私のようにAmazonなどネットで買った本用にもらっていく客は意外と多いのでは?と思っている。書店に行く時に、どうせならあのカバーが置いてある店に行こう、となってしまう。この無料カバーを出している企業をざっと見ると、Amazonの利用層と商品を売り込みたい層と合致するように感じる。ソニー(バイオをデザインしたカバー)の作品もある。
Amazonでも本を買う本好き人間なら、書店に足を踏み入れたら、書籍を物色せずにはいられないだろう。新刊を手に取らずにはいられないはずだ。つまり、書店にとっては、ネットで本を購入する層を店に引き寄せる一種の武器になるのでは、と私は考えている。
書店、客、広告主の三者にとって利のある手法である。
うーん、これはいいところ突いているなー、と店先で感心した次第である。TVでCMをガンガン流している大企業がこうしたミニコミ的な広告戦略を打っていることに驚いたが、それほどPR効果のある広告媒体ということの裏付けでもある。
外資系企業が、本にはカバーをかけるという非常に日本的な文化の特徴をとらえていたことにも感心した。過去には、ニュージーランド観光局の広告もある。日本人スタッフの提案かもしれないが、やはり外国から来た人にとっては、この習慣がめずらしく、目につくのではないかと思う。
7月には香水をつけた広告カバーがお目見えするという。
普段ネットでばかり本を買う人も、こうしたラックを置いている書店に足を向けてみてはいかがでしょうか。
この「ブラジャケ」。まだ首都圏の約100店にしか設置されていないが(関西にも5店ある)、今後は全国的に広がっていくのではないかと予想している。ほかのサイズのカバーも出るのだろうか。
私見だが、時間に余裕のある若者はできる限り書店で買い物をしてほしいと思う。親も子供用の本はネットでは買わず、書店に子供と一緒に出向いてほしい。書店で本を探す技術を身につける機会というものを若い人たちが失ってしまわないか、ちょっと心配しています。クリックで欲しい本が一発で出てくるのは便利だけれど、店内あちこちのコーナーを巡りながら本を探す楽しみというものも十分に知っておいてほしいのです。